ホイールナットトラブルから生まれた疑問
私のS660で発覚したホイールナットトラブル。
Honda純正ホイールは球面座ですが、購入時にはテーパー座の社外ホイールナットが装着されていました。

実際に装着されていた社外テーパー座ナット(左)とHonda純正球面座ナット(右)
幸いHondaディーラーの作業担当者が異常に気付き、事故になる前に純正ナットへ交換することができました。
詳しい経緯についてはこちら。
→ BLOG「ホイールナットトラブル」
そこで一つ疑問が生まれました。
そもそもS660のホイールやホイールナットには、走行中どれくらいの力がかかっているのだろう?
ということで、S660 LABOらしく計算してみます。
今回の計算条件
今回使用する車両条件は、私のS660に合わせます。
車両
Honda S660 α CVT
車両重量:850kg
前後重量配分:45:55
ホイールベース:2,285mm
純正アルミホイール
フロント:15×5J +45 / PCD100 / 4H
重量:約6.4kg
リア:16×6.5J +50 / PCD100 / 4H
重量:約7.5kg
ホイールナット
Honda純正スチールナット
重量:約32g/本
1輪4本
タイヤ
ヨコハマ BluEarth-GT AE51
路面条件
アスファルト
ドライ
気温25℃
一般道相当
重要な前提
今回は実測ではなく概算です。
また、計算に必要なS660の重心高については正確な公表値を使用できないため、
重心高:450mm
と仮定します。
走行条件も、
通常発進:0.3G
60km/h一定速直進:0G
60km/hコーナリング:0.5G
緊急ブレーキ:1.0G
として計算します。
① 停車しているだけでも約850kgを支えている
まず停車状態。
前後重量配分45:55として計算すると、
前軸:約382.5kgf
後軸:約467.5kgf
左右均等なら、
右前:約191kgf
左前:約191kgf
右後:約234kgf
左後:約234kgf
となります。
左前:約191kgf
左後:約234kgf

右前:約191kgf
右後:約234kgf
つまり、止まっているだけでもタイヤ1本には約190~230kgf相当の垂直荷重がかかっています。
② 普通に発進するとどうなる?
0.3Gで加速すると仮定します。
加速すると車体の荷重は後方へ移動します。
概算すると、
右前:約166kgf
左前:約166kgf
右後:約259kgf
左後:約259kgf
程度。
左前:約166kgf
左後:約259kgf

右前:約166kgf
右後:約259kgf
停車時に約234kgfだったリアタイヤが、約259kgfまで増えます。
③ 60km/hで直進すると?
ここは意外と面白いところ。
平坦な道路を60km/hで一定速度で走っているだけなら、理想化したモデルでは前後左右への大きな荷重移動は発生しません。
したがって概算では、
右前:約191kgf
左前:約191kgf
右後:約234kgf
左後:約234kgf
と停車時とほぼ同じ。
左前:約191kgf
左後:約234kgf

右前:約191kgf
右後:約234kgf
つまり、
「速度が上がったから垂直荷重もそのまま増える」わけではありません。
※実際の道路では空力、路面の凹凸、サスペンションの動きなどが加わります。
④ 60km/hでコーナリングすると?
ここでは一般道で比較的強めの、
横加速度0.5G
として考えます。
左コーナーなら右側が外輪になります。
概算では、
左前(内輪):約125kgf
右前(外輪):約258kgf
左後(内輪):約151kgf
右後(外輪):約316kgf
程度。
左前:約125kgf
左後:約
151kgf

右前:約258kgf
右後:約316kgf
ここで一気に差が出ます。
停車中には約234kgfだったリアタイヤが、外輪では、
約316kgf
まで増える計算です。
※前後ロール剛性などを単純化した概算なので、実車の各輪荷重を正確に示す値ではありません。
⑤ 60km/hから緊急フルブレーキ!
これは飛び出しなどを想定した厳しい条件として、
減速度1.0G
で計算します。
強くブレーキをかけると、今度は大きく前輪へ荷重が移動します。
概算では、
右前:約275kgf
左前:約275kgf
右後:約150kgf
左後:約150kgf
程度。
左前:約275kgf
左後:約150kgf

右前:約275kgf
右後:約150kgf
停車時には前輪約191kgfだったものが、緊急ブレーキでは約275kgf。
S660の軽い車体でも、走行状態によって各タイヤの荷重は大きく変化します。
まとめて比較すると
| 状態 | 左前 | 右前 | 左後 | 右後 |
| 停車 | 約191kgf | 約191kgf | 約234kgf | 約234kgf |
| 発進 0.3G | 約166kgf | 約166kgf | 約259kgf | 約259kgf |
| 60km/h直進 | 約191kgf | 約191kgf | 約234kgf | 約234kgf |
| 左コーナー 0.5G | 約125kgf | 約258kgf | 約151kgf | 約316kgf |
| 緊急ブレーキ 1.0G | 約275kgf | 約275kgf | 約150kgf | 約150kgf |
※あくまで単純化したモデルによる概算値。
じゃあナット1本には316÷4=79kgかかる?
ここからが今回の本題。
外側リアタイヤに316kgf相当の荷重がかかっているなら、
316kg ÷ ナット4本
=1本あたり約79kg?
……と考えたくなります。
でも、そういう仕組みではありません。
正常に締結されたホイールでは、4本のナットが車重を直接ぶら下げて支えているわけではありません。
ナットを規定トルクで締めることで、
ホイールをハブへ非常に強い力で押し付ける
ことが重要になります。
108N·mで締めたナットの軸力は?
S660のホイールナット締付トルクは108N·m。
ここから一般的な簡易式を使い、M12ボルト・ナット係数0.2と仮定して軸力を概算すると、
ナット1本:約45,000N
になります。
kgfに換算すると、
約4,600kgf
つまり、
ナット1本で約4.6トン重相当の締結軸力
というオーダー。

※締付トルク108N·mから算出した概算値。実際の軸力は摩擦係数などによって変化します。
4本なら単純合計では約18トン重相当になります。
もちろんこれは締付トルクから求めた非常に粗い概算で、実際の軸力はねじ・座面の摩擦、潤滑状態、部品精度などによって大きく変化します。
それでも、「数十kg程度の力でホイールを留めているわけではない」ことは分かります。
ここでホイールナットトラブルにつながる
正常な球面座ナットなら、この大きな締付力を想定された座面で受けることができます。
ところが私のS660では、
球面座のHonda純正ホイール
に対して、
テーパー座の社外ナット
が装着されていました。

座面形状が合わなければ、接触が一部に偏ります。
そして基本的には、
同じ力でも接触面積が小さくなれば、局所的な面圧は高くなります。
だから、
「108N·mで締めたから大丈夫」
とも、
「ナットが締まっているから大丈夫」
とも限らないわけです。
S660 LABOとしての結論
今回計算してみて、最初に想像していたものとは少し違う結論になりました。
気になっていたのは、
「走行中、ナット1本に何kgの負荷がかかるのか?」
でした。
ところが調べていくと、本当に注目すべきなのは単純な車輪荷重の4等分ではなく、
ホイールとハブを締結している非常に大きな軸力と、それを受ける座面だった
ということが分かってきました。
小さなホイールナットですが、重要な役割を担っています。
だからこそ、
ネジ径・ピッチだけでなく、ホイールとナットの座面形状が適合していることが重要。
これが今回のS660 LABOの結論です。
でも、まだ終わらない。
今回の0.3G、0.5G、1.0Gはあくまで仮定。
だったら、
実際のS660では何G出ているのか?
発進時は?
ワインディングでは?
急ブレーキでは?
でも「G」なんてどうやって測る?
・・・あっ、センターディスプレイがあるじゃないか!!

S660 LABO 実測編へ続く。
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